
香川大学創造工学部
堀井研究室
研究室の概要
堀井研究室は2025年4月より香川大学創造工学部にてスタートしました。有機物と無機物のハイブリットである金属錯体をベースに、これまでにない機能をもった分子性材料を開発することを目的にしています。対象とする物性は磁性、電気伝導性、運動機能性と多岐にわたります。また新規物質の合成から物性測定、解析、装置開発を一貫して行っています。以下に代表的な研究成果をまとめます。
有機結晶からなる熱エンジン
みなさんは「結晶」と聞くと、どのようなイメージを持たれるでしょうか。例えば、身近な結晶である塩や氷砂糖などは硬く、無理に力を加えると割れてしまいます。ところが私たちの研究室では、結晶でありながら手で曲げられる「やわらかい結晶」を研究しています。これらは「弾性結晶」と呼ばれ、力を加えて変形させても壊れず、力を除くと元の形に戻るという、まるでゴムのような性質を示します。弾性結晶は2012年にインドの研究グループが初めて報告した比較的新しい物質であり、結晶構造を保ったまま大きな変形に耐えられるという点で、従来の常識を覆す結晶として注目を集めています。

私たちの研究室では、弾性結晶を利用して、約0 ℃と約30 ℃という室温付近の温度差のみで自発的に動き続ける「熱エンジン」を開発することに成功しました。熱エンジンの構造はシンプルで、弾性結晶の先端に接着剤でおもりをつけたものになります。温度差のある環境に熱エンジンを設置すると、結晶は自ら高速振動を始め、160時間以上も止まることなく、劣化なしに動き続けます(温度差で結晶が励振される様子を記録した動画を示しています)。これは、静的な温度差がおもりの運動エネルギーへ変換した、すなわち有機結晶が熱エンジンとして振る舞ったことを意味します。我々の知る限り、これは世界初の有機結晶からなる熱エンジンです。(J. Am. Chem. Soc. 2025)


この研究を発展させることで、温和な環境に置いておくだけで勝手に動く材料を作ることが可能になります。将来的には、この運動を小型ロボットの駆動源として利用したり、結晶の動きを電力に変換することで発電に応用したりと、幅広い展開が期待されます。
※この弾性結晶はグラムスケールでの合成が可能です。ご興味をお持ちの方には試料の提供も可能ですので、お気軽に堀井までお問い合わせください。
単分子磁石を用いた2次元膜の構築
単分子磁石とは、1つ1つの分子が磁石のような性質を示す物質です。通常の磁石は多数の原子が集まることで磁性を示しますが、単分子磁石では、分子1個の中にある電子スピンの向きが安定に保たれるため、非常に小さなサイズでも磁石として振る舞います。原理的には、単分子磁石1つにつき上向き・下向きの2つの状態をとることができるため、超高密度な磁気記録媒体として、分子スピンを利用したスピン量子ビットとしての利用が期待されています。

一方で、個々の単分子磁石に情報を書き込み・読み出しを行うためには、単分子磁石を規則正しく二次元的に配列させる必要があります。そこで我々は、水の表面で分子を並べながら金属イオンと結合させることで、二次元状の薄いシート構造を作製しました。この手法の特長は、大がかりな装置を必要とせず、省エネルギーな溶液プロセスによって均一な薄膜を得られる点にあります。

磁気記録媒体には、磁石が二次元面に平行に並ぶ水平磁気配列と、垂直方向に向いた垂直磁気配列の2種類があります。このうち垂直磁気配列では、磁石同士の漏れ磁場を最小限に抑えることができるため、記録媒体としてより望ましい配列とされています。放射光施設SPring-8を用いた実験により、本研究で作製した薄膜が垂直磁気配列を示し、磁気記録媒体として有用であることを明らかにしました(J. Mater. Chem. C 2023)。さらに、単分子磁石に化学修飾を施して分子間の立体反発を導入すると、薄膜中の分子配列が密な構造から疎な構造へと変化し、垂直磁気異方性が一層強化されることを見いだしました(J. Mater. Chem. C 2024)。

これらの成果は、分子の自己集合を利用したアプローチの有効性を示すとともに、分子設計によって薄膜の構造と磁性を段階的に制御できることを明確に示しています。今後、本研究で示した省エネルギーな溶液プロセスと分子設計を組み合わせた手法は、次世代の超高密度磁気記録媒体や分子スピントロニクス材料の開発につながると期待されます。
最近のニュース
2026-01-05 | 研究室のホームページを作成しました。
2025-11-01 | 3名の3年生が研究室に配属されました。